病態解析システム活用マニュアル

 使用上の注意

 本病態解析は、セルロースアセテート膜電気泳動法によって得られた血清蛋白分画の泳動像を解析することで行っています。
 本病態解析にはいくつかの制約があります。以下の各項目をご理解戴いた上で本病態解析のご活用をお願いします。



解析結果の取り扱い

 本病態解析は、スクリーニング検査に優れているセルロースアセテート膜電気泳動法を利用して開発しました。この解析結果は充分信頼おけるものと考えていますが、万能ではありません。
 本病態解析の結果を利用される上で、以下の点にご注意下さい。
  1. 基本は蛋白分画のデータの活用です

     本病態解析は、セルロースアセテート膜電気泳動法によって得られた血清蛋白分画の泳動像を出してから、この泳動像を解析することで判定しています。したがって病態の中にはこの電気泳動法による解析に向いているものもありますが、本法による解析には不向きの病態もあります。
     
  2. スクリーニング検査です

     本病態解析はスクリーニング検査として開発しました。この病態解析で検出された病態名は最終的に決定したものではありません。精査への手がかりとしてご活用願います。
     
  3. 解析結果は疑われた病態名です

     本病態解析の病態名は診断名ではありません。血清蛋白の異常として現れた結果から判定した病態名であり、この病態名も疑われたもので確定ではありません。
     診断名を決める場合は、この解析結果だけてなく他の検査結果を確認すると共に、臨床の医師が自ら患者を直接診察した上で診断して下さい。
     
  4. 解析結果は100%ではありません

     本病態解析の解析結果は充分信頼おけるものと考えていますが、100%の結果を出せるものではありません。病態の中には解析し難いものや、他の病態と取り違え易いものもあります。
     かならず他の検査データを確認すると共に「病態コメントとその後の対応」も参照して下さい。
     
  5. 解析結果の取り扱いについて

     本病態解析の解析結果は疑われた病態名ですので、不用意に検査や臨床の現場から出さないで下さい。たとえば患者への告知などは、かならず担当の臨床の医師の責任の下に行って下さい。



検体について

 本病態解析は成人の血清を対象としています。また、人血清以外では正しい解析結果を出せません。
 以下の検体は、本病態解析には適合しませんので解析を避けて下さい。
  1. 人血清以外の検体

     本病態解析は、血漿、尿、脳脊髄液、腹水、胸水、唾液、胃腸液、乳汁、関節液、その他血清以外の人の体液や排泄物などは対象にしていません。また、人以外の動物検体なども本病態解析の対象外です。
     
  2. 溶血あるいは乳ビのある検体

     溶血した検体や乳ビのある検体では正しい解析結果を出せないことがあります。
     
  3. 投薬の影響の出た検体

     治療や検査等のために使われた薬剤によって泳動像に影響が出た場合は判定を誤ることがあります。
     
  4. 管理の悪い検体

     長期間保存された検体や、泳動前の管理が不十分な検体では正しい解析結果を出せないことがあります。
     
  5. 採血条件の悪い検体

     激しい運動の後、短時間で採血した検体では正しい解析結果を出せないことがあります。
     
  6. 乳幼児から学童の検体

     本病態解析は成人を対象にしています。子供(概略、15才未満)の場合の解析結果は正しくありません。



泳動条件

 本病態解析は、以下の泳動条件によって得られた泳動像から解析します。この条件と異なる場合は正しい解析結果を出せないことがあります。これらの条件を変更される場合は事前に確認されるようにお願いします。


装置の保守等

 本病態解析は検出感度を上げたため、異常なデータに対して敏感に反応します。セルロースアセテート膜の泳動像が良くなけれぱ本病態解析も正しく判定できません。本病態解析の検出率を良好に保つために、通常の泳動装置の管理に加えて特に次の2つの点を注意深く実施して下さい。
  1. 日常保守の励行

     泳動像が常に安定な状態を保つように全自動電気泳動装置の日常保守を怠らないで下さい。この場合の泳動状態の良否の確認には、分画値(数値データ)だけでなくセルロースアセテート膜上の泳動像の確認(次項参照)も行って下さい。
     なお、日常保守について不明な点が生した場合、弊社営業サービスまでお問い合わせ下さい。
     
  2. 泳動像の観察

     コントロール検体(弊社の分画トロール等)を用いてセルロースアセテート膜上の泳動像の確認を行って下さい。泳動像の確認を行う時、下記のような異常が発生していないか注意して見て下さい。泳動像に何らかの異常が見られた場合は直ちに原因を突き止め、これらの異常が再発しないように対策を施して下さい。 →「泳動像とメンテナンスの関係について」へ
     なお、泳動像の異常等について不明な点が生じた場合、弊社営業サービスまでお問い合わせ下さい。
     
    • セルロースアセテート膜に汚れやシミなどが付いていないか
    • セルロースアセテート膜に傷や著しいシワなどが付いていないか
    • 検体の塗布抜けや塗布むらが生じてないか
    • 検体の塗布残りが異常に多くなっていないか
    • アルブミン分画の染色が異常に濃くなっていないか
    • アルブミン分画が湾曲していないか
    • 泳動像の各分画のバンドに乱れが生じていないか
    • 展開距雄が短く、あるいは長くなっていないか
    • 泳動像が曲がって展開していないか
    • 染色むらや染色抜けが生じていないか
    • 小泡状、あるいはピンホール状の塗布抜けが見られないか
    • 染色が薄い検体がある、あるいは全ての検体が薄く染色されている
    • 染色された色調に異常(たとえぱ紫色)がみられる
    • 泳動像(のアルブミン分画)に縦スジが見られる
    • 同じ膜の中で泳動像の並びに不揃いや傾きがみられる
    • その他泳動像やセルロースアセテート膜に異常が見られないか



病態解析に必要な情報

 本病態解析は血清蛋白分画のデータを基に行っていますが、以下のデータも病態解析に必要です。
  1. 血清総蛋白量(T.P.)

     血清総蛋白量(g/dL)が入力されていない場合、M蛋白の検出はできますが、その他の病態解析はできません。血清総蛋白量が入力されていない検体に対してはM蛋白の検出だけを行います。
     
  2. 性別と年令

     年令と性別の両方の情報が入力されていないと妊娠の判定が正しく行えません。この2つのデータの1つでも入力されていないと、その検体に対しては妊娠の判定を下しません。



解析結果について

 本病態解析は、人血清のセルロースアセテート膜電気泳動法の結果から判定しますが、以下のような条件をもつ検体に対しては正しい解析結果を提供できないことがあります。
  1. この電気泳動法では泳動像の変化として現れない病態

     セルロースアセテート膜(セパラックスSP)を支持体とした電気泳動法の泳動像に病態特有の変化を示さない病態名の判定はできません。これは血清中に比較的多量にふくまれている蛋白の変動をみているため、微細な変化は捉えることができないからです。
     
  2. 治療等が施行されている検体

     この電気泳動法の泳動像に特有の変化が現れるはずの病態であっても、疾患に対する医療処置が施された結果、泳動像に現れるべき病態特有のパターンが変化した検体については判定できません。
     
  3. 軽度な変化の場合

     この電気泳動法の泳動像に特有の変化が現れるはずの病態であっても、その変化が測定誤差範囲に収まっている検体については判定できないことがあります。
     
  4. 検体

     この電気泳動法の泳動像に変化が現れるはずの病態であっても、泳動像に病態特有の変化が見られない検体については判定できません。
     
  5. 時間の経過により血漿蛋白の変化が見られる病態

     疾患に罹病してから、ある時間がたつことにより泳動像に病態特有の変化が現れたり、逆にこれが消失したりする病態については、その検体の採血時点によっては判定できないことがあります。
     
  6. 病態が複数あって互いに千渉している場合

     複数の疾患に罹病して泳動像に各々の病態特有の変化が千渉して現れた場合、正しい判定ができないことがあります。
     
  7. 投薬の影響の出ている場合

     治療や検査などのために投薬されて泳動像に変化が出た場合は判定を誤ることがあります。
     なお、泳動像に影響を与える薬の例を別項(薬剤の影響)に記述しています。
     
  8. 検体の管理が悪い場合

     長期間保存された検体や、泳動前の管理が不十分な検体では泳動像に変化が現れ、病態解析が正しく行われません。
     
  9. 採血条件の悪い検体

     激しい運動からそれほど時間が経過していない時点で採血したり、食事の後の採血では血漿蛋白成分に変動が生じるため、泳動像に変化を与え正しい病態解析が行えない恐れがあります。
     採血は空腹時を基本とし、激しい運動後の採血は2時間以上の経過後に行って下さい。
     
  10. 溶血あるいは乳ビのある検体

     溶血した検体や乳ビのある検体では泳動像が乱れ、正しい解析結果を出せないことがあります。
     特に溶血は病態解析に与える影響が大きいため、解析結果は参考にできません。
     
  11. 子供の検体

     15才未満の子供の場合、成人に対して血漿蛋白(血清総蛋白量やγグロブリン分画、αグロブリン分画、アルブミン分画の値)の変動があるため正しい解析結果を出せません。

※櫻林郁之介監修:病態解析システム活用マニュアル.常光.より抜粋



ブラウザのバックボタンで戻ってください