Reversed CPC その1(8)

【経過を追って】

櫻林  2月27日に2項目だけ検査しているのでそれだけいきましょうか。まず、BJP煮沸テストが(+)になっている。ということは尿中にBJPがある疑いがある。こういう場合はぜひ尿の蛋白分画をやって頂きたい。それから骨髄穿刺がしてありまして、細胞数2×104であってそのなかは書いてないので詳細は不明ですが、形質細胞が15.8%もあったということです。この形質細胞に異型性があるかどうかは分かりませんけれども、尿中BJPの出現と血中でのM蛋白の存在から考えて、異型性のある形質細胞の可能性があり、多発性骨髄腫の疑いがあるということでしょうね。
 それからデータが明かに間違いなのは4月4日の蛋白分画の中でM1が15.3%、M2が15.3%とあって全部足すと全体で115%になってしまいますから、明らかにデータの間違いであることが分かります。どちらかのM蛋白ががほとんどない状態ではないかと思います。それからBUNが2月29日に8.3mg/dLに突然下がっていますけど83mg/dLの間違いです。そこだけ訂正します。
 尿の変化と今まで述べてきたデータとの乖離があるでしょうか。先ほどは蛋白が陽性というのはBJPは試験紙法では引っかかってこないことが多いから、他の蛋白が出ていたということもあるでしょうし、それから尿路系感染症があるということと先ほどの腎不全と関係あるでしょうか。
松尾 ないと思います。
櫻林  松尾先生がないというからないことにしましょう。本当かどうか分かりませんけども。たまたま腎不全に感染症が合併してきたことだってあるかもしれません。
 それから多発性骨髄腫例では、貧血あるいは骨折で来院することが多いですね。この患者は最初、貧血がありませんね。ところがなんと入院して2週間目に途端に貧血になっているんです。これはいったい何なんでしょう。データが正しいとすると、先ほど議論があった脱水状態によって見かけ上、貧血がないように見えただけかもしれない。そういう目で見ると2月15日と2月29日では、色々のデータが前者が高い。しかも、Albの高値の程度からして、かなり強い脱水状態があったのではないか、ということです。
 それから血沈とCRPの変化はM蛋白で説明できるかというということですが。
参加者 連銭形成が起こると血沈が亢進します。
櫻林  そうですね。ESRが上昇する理由は炎症蛋白あるいはM蛋白の増加によって血中の粘度が上がって連銭形成が起こるためでしたね。しかし、この例では其れほど粘度があがっているかどうか。M1、M2分画がIgGタイプなのかIgAなのかあるいはIgMによって異なりますが、形質細胞が増加しているのでIgMの可能性は極めて少ないので、IgGかIgAタイプあるいはBJPだけという可能性もあります。しかし2月29日のデータでは、血沈値は高度亢進していますが、CRPも高度上昇しているので乖離ではないですね。したがって、ここでは強い炎症性変化があるということでしょう。それから蛋白分画はわずかな変動がありますけれど、だいたい同じような形で推移しています。ただし2月15日と2月29日を比較してみると先ほど云ったように、極端にTPが下がってきている。この原因は先ほど云ったように血液の濃縮ではないかと思いますね。それから、2月29日にIgG、IgA、IgM、IgEが定量してありますが、IgA、IgMは低く、IgGもむしろ低めです。さてM蛋白はどの免疫グロブリンによって構成されているのか?
 この患者さんは糖尿病というバックグラウンドがあるらしいが、骨髄腫と関係があるか。もし多発性骨髄腫の疑いだとするとM蛋白量が少なすぎること、腎不全は多発性骨髄腫における骨髄腫腎と考えていいんだろうか。そうすると入院のかなり前から多発性骨髄腫ということになる。特にBJPはアミロイドを形成しやすいので、腎臓に沈着して骨髄腫腎になりやすいことが知られておりますから、BJPが腎不全の引き金になっていたかもしれない。
参加者 IgEの23の単位は何でしょうか。もしng/dLだったら低い。
櫻林  そうですね。IU/mLだったと思います。いずれにしろ、IgE型骨髄腫の量ではないです。
松尾 多発性骨髄腫は間違いない。蛋白量が少ないから、もともと蛋白量が少ないミエローマ、 すなわちIgEとかIgDとかいうもの、もしくはBJタイプのミエローマが考えられます。ただM蛋白が2本出ていることを経験的に考えると、BJPよりもIgGの方が考え易いんではないかということになります。それから腎臓に関しては何とも言えませんけども、糖尿病による腎不全はあったかもしれません。たぶんあったと思います。ミエローマキドニーでここまでくるのはよっぽどですから・・・ちょっと分かりません。糖尿病かどうかという読み方についてHbA1cの6.7についてはだいぶ昔のデータですから、レイバイルを測りこんでいた場合には読むときに注意が必要です。
それから尿路感染症について、必ずしもCRPが高くないところを見るとひょっとしたら腎盂腎炎であったとしても、細菌感染症というよりも違う感染症を考えた方がいいかも知れません。細菌性腎盂腎炎の場合はCRPが必ず高くなりますが、この場合は1mg/dL以下ですから、よほど初期でない限りは細菌性腎盂腎炎は考え難い。そうすると感染症があるとしても別のものを考える。
櫻林  ありがとうございました。なかなか示唆に富んだコメントを頂きました。おおよそこの データの解釈でこういう病態があってこういうような合併症がこのバックグラウンドにありそうだということはお分かり頂けたでしょうか。
参加者 Caというのは高くなるんでしょうか。
櫻林  Sさんいかがですか。
参加者S 単純に考えて下がると思います。
櫻林  このカルシウムの上昇は腎不全ばかりでなく、多発性骨髄腫の場合には診断基準の一つ にCaの増加があります。これは骨破壊のためにCaが増加する。重要なポイントですね。 ここで、今までのディスカッションをまとめてみると、タイプはわからないが、多発性骨髄腫があり、骨髄腫腎かどうかは別にして、腎不全があり、また糖尿病が以前からあった、ということでしょうか。また膵臓の病変も考える必要があるかもしれません。

 それでは臨床経過をみてみましょう。


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