第11回 特別講演「脂質の国際標準化(測定精度の現状と標準化の効果)」(22)


【測定精度の現状・総コレステロール(1)】

測定精度の現状(総コレステロール) 次に、標準化の応用について、具体例を挙げてご説明致します。
 私共の標準化成績に依れば、わが国の試薬メーカーと臨床検査室を対象とした測定精度の現状は、次のようになっております。先ず、総コレステロールでは、延べ22社の試薬メーカー(調査期間:1996年1月から1998年1月までの2年1ヶ月間) が計90の分析システム(ここに1分析システムとは、試薬メーカーの分析室で標準化の対象とされた{キャリブレーターと試薬と分析装置}による一系列の組み合わせを意味する)で挑戦した場合、その内の85分析システムが標準化の認定を受けました。標準化達成率は94.4%であります。この調査から、標準化を達成した試薬メーカーの平均的な測定精度は、正確度が+0.13%と目標値よりもやや高く、精密度が変動係数で0.94%、総合誤差は2.86%と判明致しました。総合誤差が 2.86%であるということは、高脂血症診療ガイドラインにおける総コレステロールの適正域と境界域の診断基準値とされる200mg/dL の濃度で、測定上避けられない誤差の大きさは5.7mg/dLと計算されます。一方、2回以上の重複標準化を入れて計算しておりますが、284の臨床検査室(調査期間:1994年10月から1999年4月までの4年6ヶ月間)が計554の分析システムでチャレンジした場合、その内の490の分析システムが標準化に成功しております。標準化達成率は88.4%でありました。

 この結果から、標準化に成功した臨床検査室の平均的な測定精度は、正確度が試薬メーカーとは逆に-0.25%と目標値よりもやや低く、精密度が0.75%、総合誤差は2.54%であることが明らかとなっております。2.54%の総合誤差から、200mg/dLの診断基準値における測定上避けられない誤差の大きさは5.1mg/dLと計算されます。試薬メーカー側と臨床検査室側の誤差の大きさに大きな矛盾がないことが重要なポイントになります。
 以上のことから、フォローアップ成績を入れても測定現場(臨床検査室)での総コレステロールの標準化達成率は、現時点において90%を越えるものではないと推測されます。



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