第11回 特別講演「脂質の国際標準化(測定精度の現状と標準化の効果)」(5)


【National Reference System for Cholesterol (NRS/CHOL)】

NRS/CHOL

拡大図
 米国のNCCLSによって確立されたコレステロールの標準化体系であるNational Reference System for Cholesterol (NRS/CHOL)を示しました。
 上の赤枠で囲んだ部分が、コレステロール分析の「Accuracy Base」を形成します。このAccuracy Baseを構成する分析法が、絶対基準分析法(Definitive Method)と実用基準分析法(Reference Method)であり、この領域では真値の問題が両者間で常にやりとりされています。
 両法の橋渡し役をしている物質が、第一次標準物質(Primary Reference Material)であります。コレステロールの場合、米国ではNISTのSRM911b(Standard Reference Material 911b)が、それに当たります。このSRM911bは、純度の高いコレステロールの結晶でありますが、わが国では、純度の高い点に着目して、界面活性剤を添加した水溶性の標準液を調製し、日常一般法である酵素法の検量用標準物質とすれば、それで正確な測定値が得られるとされた一時期がありますが、これはマトリックスの問題からして間違った使い方の一例であります。複合多成分系である生体試料(血清)中のコレステロールを測定する分析系では、標準物質の純度が高ければ、必ずしも正確な測定値がいつも得られる訳ではありません。正確な測定値を得る為には、標準物質と生体試料のマトリックスを合わせる必要があります。これが、Matrix Effects、即ち「標準物質と患者血清のマトリックスの違いによって発生する正確度の歪み」の問題であります。

 次に、下の青枠で囲んだ部分が、患者の個人試料を取り扱う「Application Base」であります。このApplication Baseを構成する分析法が、実用基準分析法と日常一般法(酵素法)であります。実用基準分析法で推計学的に確立された正確度、即ち、目標値は伝達Transferability)と遡行性(Traceability)という上下往復の経路を通じてやりとりされます。
 両法の橋渡し役をしている物質が、第二次標準物質(Secondary Reference Material)であります。この領域では日常一般法が、精密さ(Stable and Reproducible)と正確さ(Accurate)に加えて、簡易性と迅速性も要求されるだけに、基準分析法よりも過大な負担を背負わされているという見方も出来るのではないでしょうか。



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