第10回 記念講演「DRG/PPSとELP診断技術」(16)


DRGと臨床検査(1)

 そこで問題になるのがいかに検査を上手に使うかということです。今までは検査をやったらその分だけ収入になった訳です。従って検査室はできるだけたくさん検査をやろう、やろう、やろうということでやればやるほど1980年前半までは黒字だったです。だから1970年代はもう自動分析を算盤勘定せずに隣で新しい器械を買ったから、うちも欲しいというようなことが、まかり通ったしまた、それができた時代だった。

 ところが先ほど言ったマルメ方式で段々、段々実施料と判断料が分けられて来ました。検査室の収入もどんどん黒字部分が目減りしてきました。民間検査センターの競合も激しくなってきたという状況が入ってきた。そこでそういう中央検査室制度が急激に戦後とり入れられたために若い先生方は検査の効率的な使い方を考えない傾向が出てきました。私どもが卒業したときは例えば内科の医局に入りますと、全部、新入医局員が検査をやった訳です。参考書と首っ引きで、先輩に教えて貰ってやった。だから火曜日に回診がありますと、それまでにいかに叱られ方を少なくするためにどうしたら良いか、検査を全部やっておけば良いのでしょうけれど自分の時間に制限がある、能力も制限があるからやれる範囲は決まっています。日にちも決まっている、その中で決められた時間と能力の間で一番良い検査の組み合わせを考えてやった訳です。だから自然とこういう患者さんについては何から先に検査をやったら良いかということを身についた訳です。

 ところが中央検査室制度が普及すると丸を付けると次の日に検査データが返ってくるから、若い先生方、主治医の間ではいかに適切な検査を組み合わせてやるか、どういう順序でやるかという議論は全くなくなってしまう。その結果は絨毯爆撃式な検査をやってしまう。全部丸を付けてしまう。まぁ大学病院のある診療科なんかは検査伝票に全部あらかじめ丸をつけておきまして、そして患者さんが入ってくると、その患者さんの名前だけプリントして検査室にだすなんてこともまかり通って、そのときの主治医の段階でいかに診療学的に効率的な検査をやるかというincentiveが働かない、いくらたくさんオダーしても自分に労力が降り懸かってこないですね。ただ患者さんは大変ですね、たくさん血をとられますから。それから費用もかさむ。それでやり過ぎると次の月に検査料が査定されてきますけれども、部長会議では院長から一生懸命、こういうことをやっては困りますと言うんですが、部長が今度は医局に帰って若い医局員に言うときはだいぶ迫力が薄まりまして、そうすると実際に検査をオーダーする若い先生の間にincentiveが働かない。
 例えば肝臓の専門医が検査のことを書くと、参考書に肝機能検査全部書いてあるわけです。一般の先生は何からやって良いのか分からない。



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