第9回 技術講座「遺伝子診断のいろは」(6)
【基礎知識】
V.転写から蛋白合成
転写というのは、mRNAが作られる過程です。mRNAも5’末端から3’末端の方向に作られます。1本鎖になったDNA上、遺伝子をコードする領域の3’末端側にプライマーがくっついてそこから3’末端を延ばして行くのです。1本鎖にしながらRNA合成を行うのでRNA合成が起きているDNA領域はもろくなっているともいえます。このため遺伝子組み換えが良く起きるのは転写活性が高い領域となります。例えば、バーキットリンパ腫はB細胞の腫瘍で、染色体転座は免疫グロブリン遺伝子領域でおきています。免疫グロブリンのH鎖は常にリンパ球で転写が起きているので、その部分は弱いといえます。弱いからEBウイルスが感染したときにこわれやすく転座して、t(8,14)の染色体型となるのです。
ついでmRNAはリボゾームへいきます。リボゾームは、リボゾームRNAと、リボゾーム蛋白で構成されています。
リボゾーム上をmRNAが走ります。走るとそこに、3つの塩基からなるコドンに対応したアミノ酸が、トランスファーRNAに運ばれてきて並び、ペプチド鎖が形成されます。合成されたポリペプチド鎖は小胞体からゴルジへと輸送され糖鎖がつくなどして成熟して行きます。そして細胞質に出たあと、行くべき場所へ行き機能を発揮します。
遺伝子がコードしているのは1つの蛋白質やペプチドだけです。その蛋白質が、細胞の構成成分となったり、あるいは、制御蛋白となり糖代謝、脂質代謝を動かしていくのです。なお糖鎖が結合するのは真核細胞にのみおきる現象です。遺伝子をバクテリアで発現させても糖鎖はつきません。糖鎖が付くことは、その蛋白産物の活性や位置情報に重要な場合があります。これが、遺伝子から蛋白質ができるまでの概観です。
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