第9回 技術講座「遺伝子診断のいろは」(5)


【基礎知識】

IV.DNAの複製


DNA複製フォーク
 DNAは、複製しないと増えていきません。生命であるっていうことは、自己複製することができるということです。現在の生物界では自己複製能力を持つ基本的なユニットがDNAです。
 DNA複製はフォーク状に進みます。「5’末端」とか「3’末端」という言葉はよく聞きますね。これは非常に重要でして、DNAの複製というのは5’末端から3’末端にのみ進みます。
 図の@では、DNA合成が開始すると、よどみなく鋳型上で3’末端にヌクレオチドが付加して3’末端が伸長します。のAでは鋳型DNAが1本鎖になった部分で短いDNAを合成し、それが最終的につながり見かけ上Aは3’−5’に伸長しているようになります。

 DNA合成にはDNAポリメラーゼ鋳型(テンプレート)とプライマーが必要です。これにヌクレオチドを加えていくと5’→3’へDNA合成が進みます。DNAポリメラーゼは5’→3’、3’→5’のDNA分解酵素活性を有するので2本鎖上での片方の鎖に切れ目があれば、そこからDNA合成を始めます(ニックトランスレーション)。この原理を応用して人工的に温度を高くし、1本鎖にした後、プライマーとDNAポリメラーゼとヌクレオチドを加えてDNA合成を行わせると効率的に合成を行います。この原理を覚えておくと、自分で実験やっていて、トラブルが生じたときに、必ず役に立ちます。
 TDT(ターミナルデオキシリボヌクレオチドトランスフェレース)だけは、3’末端に任意の配列を付加する能力を持ちます。鋳型なしでDNAの伸長を行うので生体内ではBリンパ球が産生する免疫グロブリン遺伝子の超多様性をつくるのに利用されています。また実験室では3’末端のラベルに利用されています。これはアポトーシス細胞の検出にTUNEL 法として応用されています。

 図に付加していく様子を示します。テンプレート上のAに対しT、Gに対しCがのって行きます。塩基同志は水素結合で結合します。また付加されたヌクレオチドは2つのリン酸がとれてホスホジエステル結合を形成します。こうして2本鎖DNAとなって行くのです。
 2本鎖の間は、水素結合です。だから、温度をあげれば外れるんです、PCRの過程で94℃にすれば、水素結合が外せ1本鎖になります。この際エステル結合はきれませんから1本鎖DNAが完全なまま形成されるのです。



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