第9回 技術講座「遺伝子診断のいろは」(3)


【基礎知識】

II.染色体の構造

 遺伝子というと思い浮かべるのは、まず染色体です。染色体の構造を説明します。染色体は細胞が有系分裂を行う際に、30億bpからなるDNAをコンパクトにたたみ二つの娘細胞に等しく分配するためにつくられます。DNAがヒストンにまきつき、それが何重にもおりたたまって出きあがっています。順にほどいていくと図のようになります。ヒストン一つに約200bpのDNAが巻き付いたユニットをヌクレオソームと呼びます。アポトーシス時には、このヌクレオソームごとに切断されて生じたDNAラダーが検出されます。ヌクレオソームとヌクレオソームの間はDNA結合蛋白により保護されていないので、アポトーシス時に活性化したDNase により容易に切断されるからです。そして一つの遺伝子は大きくても10万bpの範囲に存在します。ですから、一個の遺伝子をこの染色体の上に、同定するなんてことは絶対にできないわけです。大まかな位置が分かるだけで、それ以上のことは全く分からないです。例えば、18番の染色体の長腕にあるとか、長腕の真ん中辺だとか、その程度のことまでです。

 遺伝子診断で調べているのはDNAレベルの検索です。
 短い領域のDNAが増幅したとしても、千や2千位ならば、染色体の上には、何も現れてきません。ものすごい長さがリピートして長くなったときに初めて染色体の上で、同じ構造がちょっと長くなったな、というようなことは分かりますけれども、数千〜数万程度の伸長では染色体ではなにもみつかりません。もちろん1塩基の置換で活性化する遺伝子を染色体上で同定することも不可能です。
 染色体転座を伴う組み換えは染色体異常としてみつかります。転座部位では、2つの遺伝子が部分部分で融合した形をとり、場合によっては遺伝子の活性化を引き起こします。遺伝子診断をスタートするときに、この図を思い浮かべないでスタートしてしまうことが多いのですが、このスケールの違いは重要なので注意しておいて下さい。



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