第1回 特別講演「病態スクリーニング検査としての血清蛋白分画の意義」(3)



3.支持体電気泳動法の原理


支持体電気泳動法の原理

  1. 電気泳動現象
     荷電粒子の電場内での移動

  2. 電気滲透現象

  3. 支持体の干渉
     (1)蛋白の吸着:濾紙がもっとも著しい
     (2)支持体成分と蛋白の間の沈殿反応:
      寒天ゲルで著しい(βリポ蛋白など)
     (3)分子ふるい効果
 支持体電気泳動法では、先程来のシンポジウムでもお話が有りました様に、電気泳動Electrophreisisという現象だけで分けているのではありませんので、電気滲透現象Electroendosmosisともう一つは、支持体と蛋白質との干渉Interactionの三つの原理が複雑に絡みあって分離される訳です。ただセア膜電気泳動法の分画の場合には、この(3)の分子ふるい効果というのが大変少ない訳です。少なくとも大きな分子と小さな分子を分ける程はポロシティ(穴)は小さくない。これがポリアクリルアマイドゲル電気泳動になると分子ふるい効果が非常に大きく出てくるという訳です。幸いセア膜電気泳動法の場合には、蛋白の吸着が非常に少ないという特徴があり、それだけ蛋白分画が非常にきれいに出る。それで益々近代的な検査として登場した訳です。



血清蛋白分画を読む場合の注意

  1. まず、人為的影響はないか
     操作法の標準化を行うこと
     正常値をそれぞれの検査室で求めること
     採血および検体保存はよいか

  2. 分画値を表現するのにg/dLか%か
     できればg/dLで表現せよ
     すくなくとも病態生理学的に病状を捕らえるにはg/dLが必要

  3. 分画値と併せてパターンをよく観察せよ
     いわゆるdiscrete bandを見逃すな
     セア電気泳動では波形帯を見逃すな
     肝硬変症の場合はβ−γ bridgingを見逃すな
 その場合、臨床的な病態と検査結果とを組合わせて考える場合に基本的に心掛けておくことが三つあります。
 ただ数値を見れば、それで病態が判るというものではありませんで、まず第一にいろんな人為的な影響が検査データに現れてきます。先程お話しました検査法の標準化、勿論しなければなりません。膜が違い、技術が異なっていると、どうしても値が変ってきますので、現段階ではそれぞれの検査室の条件で正常値というものを求めておく事が望ましい訳です。それから採血及び検体保存の上で色んな影響が出てまいります。時間の関係で深くは申しませんがご承知の通りであります。

 もう一つ、分画値を表現するのにg/dLか%かという事です。それぞれ特徴があります。どうしてもg/dLで表現しないと病態が反映しない場合がある。先程のシンポジウムの中でも松尾さんが、話をされた通りであります。大体は%でいけるけれども、総蛋白量の変動が著しい場合又は或る特定の分画が非常に増えているとか、非常に少ないとかいう場合には、どうしてもg/dLという濃度に換算して考えなければ、体の中の実態を表現いたしません。例えばアルブミンが殆んど無ければ、他のα、α、β、γグロブリンがほぼ正常であっても%が物凄く高く出る訳です。両方相まって病態解析に役立つという事であります。もしも病態生理学的な詳しい検討をされる場合には、どうしてもg/dL濃度に換算しなければなりませんが、それだけでもまだ十分ではありません。もしも脱水状態或いは浮腫のような場合には、蛋白質量そのものが余り動いていなくても、濃度は動いてまいります。ですからその点も考慮しなければなりません。

 もう一つ、三番目にこれもディスカッションの中で討議されましたけれども、数値だけを云々するんでは、色々の重大な病態情報を見逃がす可能性があります。今の自動分析装置は単に%を数値化するだけですから、先程のβ‐γ bridgingひとつ取りましても、それがどういう意味を持つかという事を機械で表現出来ない訳です。そこで幾つかの研究データがありますけれども、βとγとの間の谷間がどの位浅くなっているんだという情報まで、今後自動分析装置によって表現出来るようなプログラムを持つシステムを考えていかなくてはいけない。それが出来るまでは、どうしても目で病的な分画像をきめ細かく観察する事が重要であります。そこで見逃がすと、もう引掛ってきませんので、血清蛋白分画像で先程のMinor‐M-fractionを見逃がさないという事が、他の病態解析に大きく響いてきます。それが病的な状態を発見するきっかけである場合もある訳です。



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