第1回 特別講演「病態スクリーニング検査としての血清蛋白分画の意義」(1)


 櫻林先生から非常にご丁寧な紹介を頂きまして有難うございました。今日は第1回目ということで、血清蛋白分画という日常の検査が、どのように病態スクリーニングに役立つのか、私の仕事の中で考えてきた事をご紹介しながら、今後このフォーラムの中で皆様方がその考え方を進めて頂き、更に臨床的な意義を深めていく手がかりになればという風に思います。


1.体液(血漿)中の蛋白質成分

 ご承知の様に、血清の中で最も多量に含まれている固形成分は蛋白質でありまして、総量的7%を占めております。しかし、一口に血清蛋白、血漿蛋白と申しましても、今まで明らかにされたものだけでも、80種類以上の成分から成り立っている非常に複雑な混合物であります。
 ところが血液というのは、体の隅々まで行き渡っておりますので、体の隅々の事柄が血液の中に反映されております。その中でも血清蛋白に大変微妙な影響を与えています。そこで血清蛋白を調べる事によって非常に細かく病態を観察する事が出来ます。
 先程申しました様に、はっきり判っているものだけでも80種類以上も有る訳ですから、全部を一々調べていたのでは、臨床の役に立ちません。そこで出来るだけ簡単な方法から、順次病態を解析し、患者さんの治療方針を決定する為の指標にするという事になります。


体液(血漿)蛋白質機能的分類


  1. 凝血・線溶系蛋白質成分
  2. プロテアーゼインヒビター群
  3. 補体系蛋白質成分
  4. 免疫グロブリン群
  5. リポ蛋白質群
  6. 運搬体としての蛋白質群
  7. Passenger Proteins 病的蛋白質群
 血液の中の蛋白質を機能的に分類すると、ここに書いてあるような種類があります。

 特にここで問題になりますのは、Passenger Proteins、病的蛋白質群というのがありますが、これはたまたま或る細胞が作っておりまして、その代謝の結果、一時的に血液の中を通過するものでありまして、例えばガン細胞から病的に産生される様な蛋白質群、これらがまだ無数に判らないものが在る訳です。これらを含めますと大変数多くなります。



体液(血漿)中の蛋白質成分

  1. Predominant Proteins:1〜5g/dL
  2. Major Proteins:0.1〜1g/dL
     IEPで同定可能
  3. Minor Proteins:10〜100mg/dL
     IEPで検出可能
  4. Trace Proteins:10mg/dL以下
     SRID、Nephelometryで測定可能
     RIA、EIAで測定可能 1mg/dL以下
 検査の対象としての血清蛋白というものを考えると当然測定或いは分析法の感度を考えなくてはいけませんので、病的な面から4つのグループに分ける事が出来ます。
 まず第一に、Predomlnant Proteinsと言われるのは、濃度が正常の場合1〜5g/dL位含まれるものといいますと血清アルブミン IgG免疫グロブリン位になります。これは血清蛋白の電気泳動分画検査だけで、ある程度この二つは増減を推定する事が出来るのです。

 その次がMajor Proteinsと言って一桁濃度が低いものですが、この程度のものは、免疫電気泳動法で明らかに同定が可能な分野です。
 その次のMinor Proteinsと言うのは、もう一桁量が少ないもので、免疫電気泳動で検出は可能だけれども、病的な動きを調べるのは、非常に難しくなってきます。
 更に10mg/dL以下になりますと、殆ど通常の免疫電気泳動法では判りませんので、所謂免疫測定法に依って定量するという事になります。



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