第 4 回発表・抄録番号 4

γ分画異常の症例

【症 例】

分画報告書

 
泳 動 所 見蛋白分画 セパラックスSP(上)では、塗布点よりも陰極側にバンドが出現した。従来使用していたセパラックスでは、先細りではあるが塗布点よりも陰極側のバンドは出現しなかった。
免疫電気泳動 アガロース加寒天を使用しているセンターに依頼したところ、原点付近にロケット状の沈降物が見られた。しかし、別の施設でアガロースゲルで測定したところ、通常のIgGより陰極側に沈降線が確認できた(IgG−λ)。確認のためにもう一度センターに依頼したところ、やはりロケット状の沈降物が見られたが、結果はIgG−λ型と報告されていた。
M蛋白の量が少ないので、モノクローナルな増加ではないのではないか、と推測した。
その他の検査所見 MCH 若干高値。
 Hb 低値(貧血があるというほどではない)。
 γグロブリン 高値。
 ALP 微増。
 コリンエステラーゼ 低下。
 GOT、GPT やや高値。
 LDH 高値。
 BUN 軽度上昇。
 クレアチニン 正常値の上限。
 MAP やや高値。
 γ−GTP 若干高値。
 TG 低値。

 鬱血性心不全、TGおよび肝臓での蛋白合成能を反映するコリンエステラーゼが低値であることから、栄養状態不良もしくは肝機能低下が示唆される。
 BUN軽度増加とクレアチニンギリギリから、腎機能障害も説明される。
結 論本態性のM蛋白血症と思われる。
膜の種類により易動度が違うのは、膜の特定成分と反応するM蛋白であるからではないか。
等電点電気泳動など、つぎの解析をしてほしい。

【解 説】

☆膜との反応性について
  1. 症例と非常に似通った、ロケット状の沈降物のある検体を預かったことがある。
    セパラックスSPでは原点よりも陰極側に分画が出現。
    自家製のアガロースとアガーを混ぜ合わせた自家製の寒天やコーニング製IEPフィルムでは、沈降線が出ずに真中で集まってしまった。ヘレナ製免疫固定キットやユニバーサルフィルム(アガロースゲル)、自家製アガロースゲルではIgG−λと確認できた。
    アガーでは原点付近に残り、アガロースではスローにMバンドが出るということだ。

  2. アガーとアガロースのいちばん大きな違いは、アガロペクチンの有無である。同じようなある症例で、アガーからアガロペクチンを除いて泳動する実験を行ったところ、M蛋白が確認できた。その症例ではアガロペクチンの中の硫酸基が関与していたということが証明できたが、この症例も同じかどうかはまではわからない。
    おそらく寒天成分と反応するM蛋白で、かつセパラックスとも反応しているのではないかと思う。

  3. 特定成分に結合能力を有する免疫グロブリンが、まれではあるが報告されている。
    セア膜に直接反応する蛋白も発見されており、そういう症例である可能性もある。泳動後、固定前に洗浄してしまっても、蛋白バンドが染色されるから、結合しているということがわかる。

  4. 免疫電気泳動を実施する場合は、蛋白分画といっしょにやってみてほしい。異常バンドと沈降線が合致していれば確認しやすい。

☆原点付近のロケット状沈殿物について
  1. 以前にこれとほとんど、まったく同じような電気泳動像を見たことがある。IgG−λ型だったと思うが、同じように反応しており、もしかしたら半分子IgGかな、と期待しSDS−PAGE、イムノブロットで分子量の測定まで行ったが、異常はなかった。結局、通常のIgGとは違うクローンで増えたIgGが、M蛋白みたいな感じで出てきてるんじゃないかと結論付けた。
    原点のロケット状の沈降物は、クリオグロブリンの症例を2例ほど経験した。IgM型とIgA型だった。

  2. 原点の沈降物として出る免疫グロブリンは、IgMが極端に重合したもの、クリオグロブリンやパイログロブリンのようにもともと重合した蛋白などで、ゲルのマトリクスの中に入ってしまうために拡散しないもの。それから、支持体成分と結合するもののふたつが考えられる。

☆症例について
  1. 免疫電気泳動パターンのIgM、IgAがはっきり確認できるし、もともとM蛋白の量が非常に微弱であるということを考えれば、本態性のM蛋白血症であり、ミエローマではないと思われる。
    60歳以上では、正常人でも統計学的に2〜3%の割合でM蛋白が出現するから、その類に入るものの可能性が高い。

  2. 塗布点より陰極側の分画は珍しいので、その部分だけを分取し、等電点電気泳動などつぎの解析をしてほしい。IgGの糖鎖が違うのだろうと推測している。

補足


参考文献



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