第 3 回発表・抄録番号 8

ALPアイソザイムにおいて異常バンドが出現した3症例について

【症 例】

泳 動 所 見蛋白分画・異常なし。
ALPアイソザイム(アガロース、以下同じ)・高活性を持つ小腸バンドとその陽極側バンド。小腸からのテーリング。
ノイラミニダーゼ処理・ヘレナ社セパレーターを使用。うまく処理できなかった。
ホモアルギニン添加・10mM/Lを発色試薬などに添加し泳動。失活なし。
フェニルアラニン添加・10mM/Lを発色試薬に添加し泳動。やや失活が認められた。
耐熱性試験・56℃15分でやや失活、65℃5分でほぼ完全に失活。
リポ蛋白結合・HDL沈殿試薬と血清を等量混合し、遠心した上清についてアイソザイムを行った。変化なし。
免疫向流法・変化なし。
TritonX処理・TritonXをタイタンVを支持体とした膜の緩衝液のなかに混ぜて、電気泳動。変化なし。
PIPLC処理・血清100μLに5μLのPIPLCを添加し、一晩室温放置後泳動。変化なし。
 
結 論小腸様型(kasahara variant)の疑い。免疫学的方法で確認する必要がある。

【解 説】

  1. 本症例は、泳動位置は骨型に非常に近い。しかし、骨型よりは少し易動度が遅い。性質的には小腸型近いようだ。骨型の位置にあるものは、通常は骨型と判定する。骨型か小腸型かを判定するためには、まず熱処理が一般的である。失活すれば骨型といって間違いがないだろう。
    骨型が増えてくる疾患には、本症例のなかにもあった糖尿病がある。症状が進んでくると増えるから、考慮すべき。骨疾患では当然増える。また、脳卒中の場合にも、1型のほかに骨型が増えることがある。

  2. 骨型の位置に出てくる骨型ではないものとしては、脂質と結合しているALPがある。一般的にALPは膜に結合する性質があり、これが易動度の変化をきたすことがある。その場合には、PIPLCで処理をするとノーマライズされ、本来の易動度(この場合は骨型)に戻る。

  3. 小腸型で易動度が変わる場合は、通常は遅くなるが、本症例では骨型に泳動されている。Kasahara型といわれる、肝硬変、糖尿病、急性腎炎などで出現するタイプであるの可能性が非常に高い。小腸ALP抗体を用いて最終確認をする必要がある。

  4. ある肝硬変の症例では、90%以上が小腸型だった。ノイラミニダーゼ処理前後で泳動したところ、小腸マーカーよりも易動度が速く、骨型や胎盤型に近い易動度を持っていた。小腸型と小腸様型(Kasahara variant)と思われた。免疫学的には、骨型に近いものも含め、小腸型の抗体とのみ反応した。

  5. 小腸型バンドはよくみられるし、骨型にしてはおかしなバンドは、肝硬変やそれ以外でも見つかる。これについてはまだよくわかっていないが、肝硬変などの肝機能疾患の場合、生体内では小腸タイプ以外に小腸様タイプも産生されているという可能性は否定できない。

参考文献



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