第 3 回発表・抄録番号 4

γ分画に異常がみられる症例

【症 例】

分画報告書  免疫電気泳動

 
泳 動 所 見蛋白分画(左)・スローγ位にバンド。β分画やや低値。
寒天ゲル免疫電気泳動(右上)・IgG−λ型M蛋白。M−bow不明瞭。試料穴の陰極側に尾を引いた沈殿物。
セア膜免疫電気泳動(右上)・スローγ位にIgG−λ型M蛋白のM−bow。
その他の検査所見アルブミン非常に低値。Ca低値。T−CHO低値。
結 論寒天ゲルと反応するIgG−λ型のM蛋白

【解 説】

  1. TP低値、アルブミンも非常に低い。γ分画高値。Ca低値。
    総Caの半分はアルブミンと結合しているため、アルブミンが1g/dL低くなるごとにCaは1mgずつ下がっていく。Caを読むときには、アルブミン[g/dL]に注意しなければならない。

  2. 寒天ゲル免疫電気泳動のM−bowが不明瞭で、これだけでは本当にIgG−λ型M蛋白と判定してよいものか疑問である。一方、寒天ゲルの原点のところにロケット状の沈降物が出ている。正常ならありえないことで、このロケット状の沈降物がM蛋白と思われる。

  3. 「M蛋白(M−bow)が、セルロースアセテート膜でははっきり出ているのに、寒天では出てない」という現象は、しばしば見られる。寒天ゲル、とくに粗製の寒天ゲルで、低いイオン強度(μ=0.01など)のバッファを使っている場合に多く見られる傾向がある。
    原因は、粗製寒天ゲルの中の成分(アガロペクチン)がIgGの硫酸基と結合し、ゲル状に固まって原点に付着することによる。このようなIgGはゲル内に拡散していかないから、抗原抗体反応が起きずに沈殿してしまい、M−bowは見えないのである。

  4. スローγは、γの外という意味ではなくて、「遅いγ分画」という意味である。おなじIgGという免疫グロブリンであっても、α2領域からスローγ領域まで、たいへん幅広い領域に分子が分散しているために「ポリクローナルな」「不均一性を示す」と称している。どこの部分のクローンの免疫グロブリンIgGがMピークになってもおかしくはないし、この症例の場合はスローγ位のクローンがたまたま増殖してきたということである。
    スローγ寄りのIgG分子は、寒天ゲルとの反応が起こりやすい。膠質反応高値の度合いが高くなることにも関係がある。また、たとえば表面荷電が少ないもののなかには、非常に奇妙な性質を持っているものがある。ただし、正常の場合にはそのようなIgG分子はあまりなく、目立たないだけである。なお、いままでに報告されている寒天ゲルと反応するM蛋白というのは、すべてスローγのM蛋白で、等電点が非常に高いことがわかっている。

  5. 同様の現象は、たとえばIgG由来蛋白が非常に大きな分子になっているとき、IgMのM蛋白、ほかの蛋白と結合しているM蛋白などでも起こることがある。
    このような場合には、バッファのイオン強度を上げる、寒天−アガロース混合ゲルを用いる、あるいは血清をメルカプトエタノール処理することにより、M−bowを検出することができる。

  6. 水に溶けにくいグロブリンをオイグロブリンという。IgMは正常でも典型的なオイグロブリンの性質を持っている。IgM型M蛋白やスローγ寄りのIgG型M蛋白はこの性質が出てきて、いろいろ変なパターンになる。比較的珍しくないから、IgM型、IgG型M蛋白については注意深く観察する必要がある。


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