第11回 特別講演「脂質の国際標準化(測定精度の現状と標準化の効果)」(30)


【測定精度の現状・LDL(1)】

測定精度の現状・LDL  LDLコレステロールにつきましては、例数も少なく1回限りの断面調査成績しかありませんので、断定的な判断は控えさせて頂きたいと思います。試薬メーカーでみますと、5試薬メーカーが計17の分析システムで標準化にチャレンジした結果、13の分析システムが判定基準を満たしております。標準化達成率は76.5%であります。平均的な測定精度は、正確度がCRMLNの実用基準法であるBQ法の目標値に対して+0.25%、精密度は変動係数で0.90%、総合誤差は2.88%を示しました。高脂血症診療ガイドラインにおけるLDLコレステロールの適正域と境界域の診断基準値とされる120mg/dLの濃度で、測定上避けられない誤差の大きさは3.5mg/dLと計算されます。一方、臨床検査室では全ての分析システムが判定基準を満たしました。測定現場での平均的な測定精度は、正確度が-0.11%、精密度が0.64%、総合誤差は1.90%を示しております。

 以上のことから、LDLコレステロールの診断基準値である120mg/dLにおける測定上避けられない誤差の大きさは2.3mg/dLであります。5施設の成績ではありますが、臨床検査室におけるこの成績で見る限り、LDLCの測定精度は良好な精度を示しているものと推察されます。しかしながら、日本動脈硬化学会の策定した高脂血症診療ガイドラインによれば、「血清脂質の指標として、総コレステロールよりもLDLコレステロールを一層重視していこう」という明確な方針を打ち出していることからも、直接法によるLDLCの測定精度とその測定限界につきましては、統計学的な根拠に基いた数値処理を経て、今後とも慎重に追跡する必要があると思われます。遡行性、即ちTraceabilityによるLDLコレステロールの標準化が実施し難い理由は、濃度別の新鮮な個人血清が入手し難いことに加えて、採血当日中に臨床検査室での測定を終了することが求められることが、実施上の大きなネックになっております。



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