第 4 回発表・抄録番号 1
β分画とγ分画との区別のつかない症例
【症 例】
泳 動 所 見
:
(その1)IgA増加の疑い。
(その2)γ分画低値。
その他の検査所見
:
病的所見なし。
結 論
:
アルコール性肝障害によるIgAの増加、もしくは低γグロブリン血症をきたす病態の、2つの可能性がある。
免疫グロブリンの定量、免疫電気泳動、尿蛋白分画の実施(できれば肝炎ウイルスのチェック)が必要。
【解 説】
☆アルコール性肝障害からのアプローチ
アルコール性肝障害は、一般にIgAが増加しやすい。この症例でもIgAがポリクロナールに増加しているのではないか。パターンから判断するかぎり、βのトランスフェリンが若干減っていて、そしてIgAが増えてるために、こういうふうに区分ができないのだと思う。
いまはGOT、GPT、γGTPが正常で、肝硬変にはなっていないようだが、トランスアミナーゼにまったく影響及ぼさないというような肝障害というのはいくらでもある。将来的に免疫グロブリンが増加してくるというような経過があれば、肝硬変に移行しβ−γブリッジングが出現する可能性があるということを十分注意していく必要がある。
アルコール性肝障害の場合は、重症になるとハプトグロビン等が低下するが、蛋白分画ではあまりはっきりとしない。免疫電気泳動ではっきり確認できる。できれば免疫電気泳動で全体像を把握してほしい。
肝炎ウイルスのチェックをぜひ実施してほしい。肝硬変はB型、あるいはC型肝炎ウイルスの関与が引き金となるからである。
☆γ分画の低下からのアプローチ
Zieve症候群(アルコール性急性脂肪肝を基礎疾患として、肝機能障害、脾腫、溶血性貧血を呈する)の症例では、とくに蛋白分画に異常は見られなかった。
生化学データに異常所見がないことから、アルコール依存症とは関係なく、γ分画の低下を伴っている症例ではないか。γが低い理由としては、免疫抑制剤を使っているとか、ライトチェーンになにかあるか、もともとγがギリギリに低い人なのか、という3つが考えられる。この症例は58歳ということだから、先天的な低γグロブリン血症は考えがたい。
薬剤の影響としては、抗てんかん薬を長期に使用し、無γグロブリン血症になった症例を経験したことがある。
尿中に多量のベンスジョーンズ蛋白が排泄されているときには、低γグロブリン血症を呈することがある。ベンスジョーンズ型の多発性骨髄腫の関与も考えられる。
免疫グロブリン定量、それから尿の免疫電気泳動もしくは尿蛋白分画を実施すべき。
☆症例を提示するにあたって
蛋白分画異常の症例だから化学の周辺だけ、というのではなく、臨床的な情報をできるだけ集めてほしい。入手しにくい場合もあるだろうが、検査室で集められる情報は、たとえば貧血の有無など、あまり関係なさそうなデータであっても、把握しておいてほしい。そのことによって、的を絞ったより詳しい検討が可能になる。
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