第 3 回発表・抄録番号 7

LDHが異常に低値な症例

【症 例】

分画報告書

 
泳 動 所 見(分画報告書・血清)LDH1、LDH2がまったく見られず、LDH3がやや変形ピーク。LDH5は正常に見える。易動度的には変化なし。
※また、画像データはないが、つぎのような結果が得られている。
(赤血球)1がほとんど見られなくて2、3、4、5が見られた。
(血小板)LDH1がまったくみられず、LDH2から濃度的には多少違うが赤血球とほぼ同じような形。
(唾液)LDH4はわずか、ほとんどがLDH5。易動度的には変化なし。
(母親血清)LDH1、2が見られず症例と同じパターン。
(母親唾液)症例と同じ。
(父親唾液)正常者と同じようなパターン。
 
その他の検査所見LDH異常低値。
※また、一覧にはないが、つぎのような結果が得られている。
 血球液LDH 480
 血小板LDH 300
 母親血清LDH 48IU/L
 父親唾液LDH 1551IU/L
 
結 論Hサブユニット欠損(ヘテロ体)および失活因子存在の疑い。血清混和後の泳動などで失活因子を確認し、可能ならPCRなど遺伝的な解析をやってみてほしい。

【解 説】

  1. 非常に難しい症例。赤血球の分画結果からすると、Hサブユニットのヘテロ型であることは確かと思われる。しかし、ヘテロとしては、LDHの活性が低すぎ、また血清のパターン妙である。母親血清のLDH5が高いのは肝由来と考えていたが、GOT、GPTは高くないため、それは否定できる。

  2. 完全欠損ホモ体の場合は、血清はLDH5のみで非常に低い活性となる。それでも77単位とか35単位とかである。本症例では本人も母親もホモ体のごときLDH活性を示している。唾液もLDH5のみで、症例のようなLDH4は見られない。

  3. ヘテロ体の場合は、活性値は低いかもしれないが、分画自体は正常と変わらない。本症例でも、赤血球分画や唾液分画の結果はヘテロ体を示唆している。PCRで確認すると確実である。しかし、血清分画の結果が合わない。もしかしたら、失活因子が存在するのかもしれない。

  4. 失活因子の確認は、正常血清との混和後の活性を測定することによる。失活因子があれば、患者血清の活性と正常血清の活性を足した値よりも低く、かつ正常血清では見られなかったアノマリーバンドが現れる。そして、失活因子(多くはIgG)に対する抗血清を加えると、正常血清のパターンに戻る。本症例は、混合性に関しては48時間で94%程度の失活ということだったが、抗IgGを添加したものと比較したり、泳動して確認したりしてみてほしい。

  5. Mサブユニット欠損では、ミオグロビン尿症やミオパチーを伴うが、Hサブユニット欠損症にはあきらかな症状が見られないため、現在のところ特別注意しなければならない点はない。

参考文献



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