【蛋白分画と免疫電気泳動でM蛋白量に乖離のある症例について】

質問  セパラックスSPによる蛋白分画では、mid-γ位とβの陰極側にM蛋白が認められます。量的には
「mid-γ>β」
です。免疫電気泳動では、M蛋白はいずれもλ型BJPと判定されましたが、β陰極側の沈降線のほうがくっきりと濃く、mid-γの沈降線はぼんやりしています。量的に大きな差異があると思うのですが、どのように考えたら良いでしょうか。なお、尿蛋白分画は濃縮なしでβ陰極側に明瞭なBJPバンドが認められました。
  
回答 1.蛋白分画と免疫電気泳動の差異について
  1. 蛋白分画は、蛋白を直接色素で染めて検出します。免疫電気泳動では、蛋白を抗血清と反応後生じた沈殿物を、そのままあるいは染色して判定します。蛋白と色素の反応性は蛋白の種類によって違いますが、M蛋白と抗血清の反応性の違いほど大きくはありません。免疫電気泳動の結果は、抗血清のロットやメーカーにより変わることがあることも報告されています(文献1)。
  2. 以下に免疫電気泳動の沈降線を読むときのポイントを列挙します(文献2)。染色後の濃度よりも、円の大きさと位置が重要です。

    蛋白量
    (抗体量に対する抗原量)
    多   最適   少
    沈降線不鮮明  鮮明  不鮮明
    抗血清溝との距離近い       遠い
    抗原の分子量大        小
    曲率半径大(円形)    小(直線的)
    抗血清溝との距離遠い       近い
    2本の沈降線の抗原性同一抗原 一部共通 別の抗原
    沈降線の関係融合   棘形成  交差
    M蛋白量多           寡
    M-bow出現    出現    出現
    正常Ig沈降線消失 M-bow部分で消失 出現


  3. 以上より、本症例のβ陰極位バンドとmid-γ位バンドとは、抗血清に対する反応性が違うと推測されます。

2.本症例について
  1. mid-γ位バンドは、β位バンドとは抗原性が違う物質であると仮定
    • 抗血清のロットやメーカーを変えると結果が変わることがあります。
    • IgDもしくはIgE型M蛋白の可能性があります。免疫グロブリン定量および免疫電気泳動で確認します。

  2. β位バンドとは分子量が違うため、パターンが変化していると仮定
    • λ鎖の分子構造の異常、重合、免疫複合体などが考えられます。
    • IgM型やIgA型の場合はM蛋白が重合し、H鎖がうまく検出できないことがあります。このようなときは、メルカプトエタノール処理を行なうと検出されることがあります。
    • mid-γ位バンドは血清のみでみられることから、四量体BJPの可能性があります。四量体BJPは分子量が大きいため、尿中に排出されず、血中に蓄積されるからです。
    • IgD・IgE型M蛋白が否定されたら、SDS-PAGEによる分子量測定等で確認します。


 参考文献


※その後「IgD-λ型多発性骨髄腫」と診断された旨ご連絡いただきました。ありがとうございました。



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